「ちゃぶ台 和」という怪物


世界三大ちゃぶ台 和がついに決定

世の中って、わかりやすいものを求めますよね。

私の生活って、既存の言葉でいちばん近いのが隠居かなーと思うんですけど、パッと見、フツーのアパートに住んでフツーに暮らしてるから、どこかどう違うのか人に説明すんのすごい大変。
これがもし隠居で手っ取り早く有名になりたいとかだったら、もっと世間が求めるような、わかりやすい記号的な隠居のイメージに乗っかってると思うんだけど…。たとえば4畳半の風呂なしボロアパートに住んで、ちゃぶ台に裸電球で、和服きて、TVカメラの前で俳句でも詠んでみたいな。だけど私は名が売れるより自分の生活の方が大事だし、そんな主義主張だけが先行してもなんかなーとか思っちゃう。そんなわかりやすくてたまるか!とひねくれる。ひねくれてもう霜月。今年も残りわずかだ。このまま期待に応えず、ひねくれ倒していこうと思う。

ちゃぶ台 和の大運動会

智くんのお祖母の回想

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえる。

泣き声が…

あれは…?

一体…

良く知る泣き声のハズなのに、思い出せないでいた。

 

 

 

 

 

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柚加は家に戻っていた。

櫻井の旦那様もすくすくと育つ智を見て考えが変わった様だった。

今日は早番だったからいつもより早めに帰宅できる。

すこし孫とゆっくりできるかもしれない。

智は成長が目覚ましくて毎日が慌ただしく過ぎていた。

 

家に帰ると、玄関に娘の靴と見慣れない靴がもう一足。

スニーカーは小さいから女性のモノに違いない。

友達…?

だが、家に上げてる事自体が奇妙だった。

柚加はそういった事を好まない。

急いでリビングに入って言葉を失った。

 

 

『お帰り…。』

〔おばさん、お帰りなさい。〕

 

 

心臓が止まるかと思った。

ちゃぶ台を挟んで娘の向かい側に座っていたのは葉月さんだった。

一体どうして…?

あわてて柚加を見ると、膝に甘えたように智が張り付いていた。

そして…

 

 

〔智くんてママが大好きだから、伯母さんに全然慣れてくれないの。〕

「葉月さん…一体どうして…?」

〔凄いの…駅でばったり会ったのよ。

こういう時に便利ね、そっくりだから見間違えないわ。〕

 

 

そう言って柚加を見てコロコロと笑っていたが、私は心穏やかじゃなかった。

 

 

[う…ひゃぁ…。]

 

 

葉月さんの側から奇妙な声がした。

…?

 

 

〔ああ、おっきしちゃった…?〕

 

 

現れたのは赤ん坊。

まさか…

 

 

〔しょうちゃん、叔母ちゃんのママですよ…。〕

 

 

慣れた手つきで抱き上げる。

 

 

「葉月さんその子…?」

〔冬に生まれたの…「しょう」 って言うんです。〕

「しょう…くん…?」

 

 

男の子…?

綺麗な子で、女の子みたいだった。

 

 

「名前の…漢字は…?」

〔羊に羽…羊さんがフワフワ空を飛んだら可愛いかしらって…ふふっ。〕

 

 

葉月さんは母親の顔を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい人見知りを見せていた智だったが、葉月さんが帰ろうとした頃にようやくイヤイヤと意思表示をし始めていた。

 

 

『姉さん、ごめんね。』

〔え…何が…?〕

『名前…。』

〔いいわよ、気にしないで。

ソッチこそ気味が悪くない…?〕

『そんなことない。』

〔そう…良かったわ。〕

 

 

名前…?

 

 

「名前がどうかしたの…?」

『あ…。』

〔智って素敵な名前でしょ? 意味も素敵だって知ってた…?〕

 

 

意味って…

葉月さんの最後の言葉は柚加に向けられたものだったが、柚加は黙ったままだった。

 

 

〔…是非の心…。〕

 

 

葉月さん…?

 

 

〔良いことも悪いことも真理を受け止める人になるわよ。〕

『…。』

〔…なぁ…んてねっ。〕

 

 

葉月さんはいたずらっぽく笑っていた。

 

 

〔それじゃあね、智くんまたね。〕

『丁度いいわっ。 智、伯母さんに抱っこしてもらおう。』

〔え…?〕

 

 

そう提案した柚加に言われて翔くんを受けとる。

智は大人しく葉月さんに抱かれていた。

葉月さんと、柚加を不思議そうに見比べていた。

柚加がそんな二人の写真を撮っていた。

 

 

〔それじゃあ…

知り合いがいないから、会えて嬉しかったわ。〕

『私も…。』

〔また、会いましょ?

どうせ、こんな状態じゃ働けないし…。〕

『之啓さんは…?』

〔遅いの…仕方ないのよ。

よいしょっ、じゃあ柚加、必ず電話してね。〕

 

 

そう言って荷物を担ぐ。

 

 

『姉さんっ。』

 

 

焦った様な声を上げて玄関のたたきに裸足で下りた柚加に、何を言い出す気なのかと不安になった。

 

 

〔…?〕

『姉さん、幸せ…?』

〔何よ?〕

『櫻井を出て苦労してるんでしょ?』

〔大丈夫よ…。〕

 

 

葉月さんはそう言って、胸に括りつけられた翔くんを見つめていた。

 

 

〔この子のためだもの、平気。〕

 

 

そう言って笑っていた。

 

 

 

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あの時、柚加はどんな気持ちだったんだろうか…

鞄から写真を取り出した。

むかし送ってもらった時のモノだった。

 

あの後、柚加は再び家を出てしまっていた。

葉月さんが心配して何度も訪ねて来ていたけれど、連絡先は知らないで通した。

葉月さんに会いたくないんだと解っていたから。

柚加は二度と子供が生めない。

だが、あの後、葉月さんは和也くんも生んでいた。

二人も息子がいたんだ。

 

だから…

だからって許されない。

それでも、私は…

私は…

 

赤ん坊の声はまだ聞こえていた。

あれは一体…?

 

ああ…そうか…

やっと思い出した。

あれは柚加がお腹を空かせて泣いているんだわ。

 

何だか私の意識は…更に遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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