2.今までで一番厳しいおしおき
空と海はトボトボと階段を下りてリビングに行くと、悠一の目の前に正座させられた。
「何か言い訳があるなら聞いてやるぞ。」
悠一が鋭い目つきで2人の顔を交互に見ると、海が口を開いた。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。つい、ちょっとだけ吸ってみたくて。タバコってどんな味なのかなって。」
まるで、夜ごはんの前にお菓子をつまみ食いして、「ちょっとだけ。」と言っている感じにしか聞こえない。タバコ=お菓子の感覚で話している海に対して、悠一の怒りは爆発寸前にまで達していた。
「海っ!ふざけんなっ!よりによっておまえまで、何やってんだ!」
「お兄ちゃーん、海ね、すごーく反省してるから、許してぇ。」
角が生えた悠一を前に、何とかおしおきを免れよう、さもなければ、少しでも軽くしてもらおうと、ありったけの甘えモードでお願いしてみた。
悠一はそんな海の魂胆にはまったく応じず、“おまえはバカか・・・。”と言わんばかりに海を見下ろすと、
「2人とも覚悟はできてるんだよな?」
吐き捨てるように言った。空はあきらめの境地に達していて、何も答えなかった。一方で海は、だんだんと恐怖心が募り、
「お兄ちゃん、海、一口しか吸ってないの。ゲホッてなって、すぐにやめたから、全然吸ってないんだよ。」
必死になって弁解した。
「おまえ何言ってんだ?吸ったことに変わりはないだろ。空の方が何十倍も悪いが、海も同罪だからな。」
海は目に涙をいっぱい溜めて、いやいやと首を振った。
「空、こっち来い。」
悠一はイスに座ると、空を呼びつけた。
「ケツ出せ。」
「・・・兄ちゃん、オレ、もう、さっきので限界・・・。」
「はあ?限界だから何だ?」
「・・・だから、もう、お尻叩かないでください・・・。」
ジンジンと痛むお尻を押さえながら、消えてしまいそうな声でお願いしたが、
「おまえの意見なんて、一切聞いてない!」
ピシャリと言われてしまい、空は首をうなだれた。
「早くケツ出せよ。これ以上オレをイラつかせるな!」
どうにもならないと腹をくくり、履いている物を下ろして、悠一のひざに横になった。
真っ赤に腫れ上がったお尻が、もう充分に叩かれたことを示していたが、悠一はそれには目もくれず、
「暴れるなよ!」
と言うと、その後はひとこともしゃべらず、力いっぱいお尻を叩き続けた。空はすぐに、ギャーギャーと声を上げて泣き出した。それほど強烈な平手が打ち付けられた。
“空があんなに泣き叫ぶなんて、よっぽど痛いんだよね・・・。空、かわいそうだよ・・・。”
海は空のことが心配になって、
“早く終わりにしてあげて。”
祈るような気持ちで、目の前の光景を見つめていた。
たぶん100発以上は叩かれただろう。悠一の手が止まり、やっと空がひざから下ろされた。そしてそのまま床に突っ伏して、小さい子供のようにワーワーと泣き崩れた。
「空、正座しろ。」
悠一が命令口調で言い放ったが、空は起き上がることができず、その場にうずくまったままだった。強引に空の手を引いて立ち上がらせると、海の所まで引きずるように連れて行き正座させた。
海は、今までに見たことがないくらい厳しい悠一の姿に青ざめた。
“次、私の番だ・・・。怖いよー。どうしよう・・・。”
体がブルブルと震えて、歯がガクガクして止まらなかった。
そんなとき海の頭に浮かんだのは、恒だった。
“恒先生、助けて~! きっと恒先生がいたら、「そんなに怒るな。」って、お兄ちゃんをなだめてくれたと思う。空だって、おしおきの後に抱っこしてもらって、お尻冷やしてもらえたよね・・・。”
海は恒の優しい一面だけを思い描いたが、しかし、現実はそう甘くない。恒は悠一以上にタバコ嫌いで、もしこの場にいたら、海が望んでいるような結果には至らず、2倍、いや相乗効果的なおしおきを受けていた可能性も考えられる。
「海、来い!」
この場から逃げ出したい気持ちを何とか抑え込み、ビクビクと悠一の所へ行くと、
「自分でケツ出せ。」
逆らうこともできず、パジャマとパンツを下ろして自分からひざに乗った。すぐに、お尻に強烈な痛みが走った。空のときと同じ叩き方・・・無言でひたすら叩き続ける。
「ごめんなさい。お兄ちゃん、痛いよー。もう絶対に吸わないから、ごめんなさい。」
何度繰り返し謝っても、無視された。泣き叫び過ぎて、声がかれ、喉がカラカラになった。おそらく空と同じぐらい叩かれて、やっとひざから下ろされたが、体に力が入らず床に倒れ込んだ。
悠一は腕を組み、2人の様子をジーッと眺め、
「2人とも、そこにうつぶせになれ。」
床を指さして、感情がまったくこもっていない言い方で指図した。
“お兄ちゃん、許してくれたんだ。お尻冷やしてくれるんだ。”
海はホッと胸をなでおろした。
2人が並んでうつぶせになると、ズボンとパンツがすべて脱がされた。
「えっ?」
戸惑っている2人に、信じられない言葉が告げられた。
「今から、お灸するから、おとなしくしてろ。」
「えーーーー!」
海が叫んだ。
「お尻に?」
怖々聞くと、悠一は無表情で
「ああ。」と答えた。
“こんな真っ赤っかで熱もってるお尻に、熱いお灸をするなんて、あり得ない・・・。”
「お兄ちゃん、やだぁ。お灸なんて絶対やだー。もういっぱい反省したから、お灸なんてしないでー。」
海は壁際に逃げて行き、足を抱え体を小さくして座り込んだ。
「このくらいケツ叩いただけじゃ、まだまだ許せないな。海、早くこっちに来い。」
海は必死に首を振って、その場から離れようとしなかった。
空は床にうつぶせになったまま、顔を上げずにジッとしていた。悠一がこういう状況で自分の意見を撤回したことは、今までの生活においてほとんどなかった。いくらあがいたところで、結局は実行されてしまうのなら、どうにもしようがない。
“特に兄ちゃん、オレには厳しいから・・・。”
2人ともお灸なんて初めてだ。見たこともなければ、うちにそんな物体が存在することさえ信じられない。昔はおしおきと言えばお灸を連想させるぐらい、みんなされていたと聞いたことがある。火をつけて、ものすごく熱くなることは何となく理解しているが、それがどの程度のものなのかは、まったく分からない。ましてや、散々叩かれたお尻にお灸されるなんて、想像もつかないくらい恐ろしい。
海は手こずりそうなので、先に空から始めることにした。悠一は
リビングボードの奥の方から、見慣れない箱を引っ張り出し、その中からお灸を2個取り出した。
「空、動くなよ!」
痛々しいお尻の左右に1個ずつお灸を乗せた。空は手をギューッと握り、歯を食いしばってジッとしていたが、本当は海みたいに「やだー!」と駄々をこねて逃げ出したかった。それでも、さっさと終わらせたいという思いと、オレは男だからという意地から覚悟を決めた。
「火をつけるから、絶対に動くんじゃないぞ。」
悠一が強く真剣な口調で言ったので、空は怖くてたまらなくなった。没収したライターで火をつけると、
「悪いことをしたライターで、今度は自分のケツにお灸をすえられるんだから、哀れなもんだよな。」
嫌味ったらしく言われたが、今のこの状況では、空の耳にはまったく入ってこなかった。
始めのうちは何も感じなかったが、時間が経つにつれてジリジリと熱くなり、数分後には火傷するような熱さと痛みに変わった。空はこうなった以上、弱音は吐かないと決心していたが、もろくもそのプライドは崩れ落ちた。
「熱いよー。兄ちゃん、熱いっ。もう終わりにしてー。ごめんなさい。ごめんなさい。」
悠一は空が暴れないように体を押さえつけ、最後の仕上げに取りかかった。
「もう二度とタバコは吸わないか?」
大声を張り上げて空に確認すると、
「もう絶対に吸わない。お兄ちゃん、ごめんなさい。」
必死な思いで泣きながら答えた。
「よし。その言葉、信じるからな。」
と言うと、お尻に乗せた2個のお灸を取り外した。
空はお尻を出したまま、ヒクヒクと泣き続けた。
「空、まだおしおき終わってないぞ。さっさとケツしまって正座しろ。おまえのタバコのせいで、海がどれだけ怒られるのか、しっかり見てろ。」
空は痛みのあまり、自分のお尻が自分のものでないような違和感を感じ、起き上がることも、パンツを履くこともできないでいると、今日の悠一はとことん厳しく、
「おまえが正座しないと、次に進めないんだけどな。」
悠一ににらみつけられ、空はやっとのことで立ち上がってパンツとズボンを履いた。正座しようとしたが、かかとがちょうどお灸した場所に当たり、悲鳴をあげて飛び上がった。
悠一が海の所に近づくと、海は、空がお灸をされる一部始終を見てしまったため、
「絶対に嫌だ!」
と言って、カーテンにしがみついた。悠一は無理やり押さえつけてお灸することも考えたが、暴れられると危険だし、ここまで嫌がる海を見ていると、かわいそうかな・・・という思いにかられてしまった。それでも、きちんと反省させなければと、心を鬼にして言った。
「海、兄ちゃん何回も言ったよな。もしタバコを吸ったら、今までで一番厳しいおしおきをするからなって。おまえ悪いことしても、ケツ叩かれるぐらいじゃ全然反省しないだろ。現に今まで、何度も何度も繰り返しひっぱたかれてきたよな。今回はもう二度とやらないように、お灸をすえるって言ってるんだ。分かるか?ケツ叩くぐらいの甘っちょろいおしおきじゃ、許せないって言ってんだよ!」
だんだんと口調が強くなってきて、海はしくしくと泣き出した。
「ほら、もう観念して、早くこっちに来てそこに寝ろ。」
海の腕を引き上げようとしたが、海は全身で抵抗し、断固として動かない。
「海、いい加減にしろ。」
「お灸はやだー。」
「空はちゃんと我慢したんだぞ。同じことをしておいて、おまえだけ逃げられるはずないだろ。」
「やだよー。お灸やだー。」
小さくうずくまって、怯えた目をして泣き続けている海を見て、悠一はこういう展開になることは分かっていたが、海にしっかりと反省させようと思い、あえて時間を割いた。
相当追い詰められた海を見て、
「兄ちゃん。」
空が突然声をかけてきた。
「何だ?」
「海、すごく反省してると思うし、今回はオレのせいで海を巻き込んじゃったから、お灸しないで許してあげてほしい。」
「ん?」
「海、こんなに熱いのは、絶対に耐えられないと思うから。」
「空、おまえ・・・。いいのか?自分だけ厳しいおしおきされたんだぞ。」
「うん。オレが悪かったから。」
悠一は海の方を見て、
「海、空がかばってくれてるぞ。こうやってみんなから甘やかされて、これじゃあおまえ、ますますつけ上がるよな。」
「・・・空、ありがとう。」
細々とした声で言った。
「それじゃあ空に免じて、お灸は勘弁してやる。その代わり、道具使ってケツ叩くけど、我慢できるよな?」
「・・・道具って?」
不安そうに海が尋ねると、悠一はお灸が入っていた同じ引き出しから、30㎝のプラスチックの物さしを取り出した。この引き出し、いったい何がコレクションされているのか・・・。
「えっ?」
海の顔が引きつった。
「お兄ちゃん・・・。」
「どうする海?お灸か、物さしか、好きな方を選んでいいぞ。」
“物さしでなんて、叩かれたことない。絶対に痛いよね・・・。でも、お灸は絶対に嫌だ。両方やだなんて言ったら、甘えるなってひっぱたかれそうだし・・・。”
海が「何回?」と聞くと、
「さあ・・・おまえが心から反省できるまでかな?」
悠一は意地悪そうに微笑んで答えた。
“どっちみちこのままじゃ許してもらえないってことだよね・・・。空が助けてくれて、これ以上わがまま言えないし・・・。お灸は絶対に無理だから、物さし・・・。でも、どのくらい痛いんだろう・・・。”
いろいろな思いを頭の中に巡らせた末、やっとのことで決心がついた。
「物さしで。」
そう告げると、悠一は手に持った物さしを、ビュンビュンと振って見せた。
“すごい音・・・。お兄ちゃん、鬼の顔してる。あんなので思いっきり叩かれたら、海のお尻、アウトだ・・・。”
「じゃあ、さっさと始めるぞ。立って、テーブルに手をつけろ。」
“えっ、おひざじゃないの・・・?”
海はいくらか動揺したが、そこはグッと我慢して立ち上がった。さっきズボンとパンツは全部脱がされてしまったから、下は何も履いていない格好で、テーブルに手をついた。
「ケツ突き出して、足踏ん張ってろ。」
全身に力を入れて身構えていると、ピタピタとお尻に物さしが当てられた。
「ちゃんと反省するまで叩くからな。」
どんな痛みがやって来るのか想像もつかないまま、恐怖の瞬間を待った。
ビッシーンッ!
30㎝の物さしが、右側のお尻にぶち当たって、お尻がちぎれる!と思うぐらいの衝撃が走った。
「ギャー!」
お尻を手で押さえて床にしゃがみ込んだが、すぐさま悠一に立たされ、上半身をテーブルに乗せられて、腰をしっかりと押さえつけられてしまった。
すぐに2発目が、今度は左側のお尻に打ち下ろされた。
ビッシーンッ!
「うっ・・・いったぁーい・・・。」
お尻に手を当てることも、床にしゃがみ込むことも許されず、ただ耐えるしかなかった。
3発目、
ビッシーンッ!
始めから大泣きしている海は、この時点でもうボロボロに泣かされ、顔中、涙と鼻水でグチャグチャになっていた。
4発目、
ビッシーンッ!
「ギャー、ごめんなさい。もう絶対にタバコなんて吸わないから、許してー。」
泣きながら、必死に謝った。
「よし、じゃあこれで最後な。」
まだ赤くなっていない、お尻の下の方を、今度は平手で思いっきり叩かれて、やっと解放された。海はその場に崩れ落ち、泣き続けた。
「これが本気のおしおきだ。よく覚えとけよ!」
海がパンツを履いて、空の隣で正座をすると、悠一は2人の目の前に立って、
「おまえら、二度目はないからな。海は次やったら、そのときは強引に押さえつけてでもお灸するからな。今日みたいにわがまま言えると思ったら大間違いだ。空はもっときついおしおき、まだまだいくらでもあるからな。分かったか?」
「はい。」
2人同時に答えると、
「さっさと寝ろ。」
と言って、リビングから出て行ってしまった。
“いつもならおしおきの後には、優しいお兄ちゃんに戻って、冷たいタオルでお尻を冷やしてくれるのに・・・。抱っこして「お尻痛かっただろ。」って、背中をトントンしてくれるのに・・・。今日はあれだけ厳しくされたのに、まだ怒っていて、顔がすごく怖いし、甘えさせてくれる雰囲気は少しも感じられない。全部終わって、許してもらえたときのお兄ちゃんの笑顔が見たくて、一生懸命我慢したのに・・・。”
海の目から、さっきまでの痛くて流れた涙とは別の、悲しくて切ない涙がとめどなくこぼれた。
つづく